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大阪地方裁判所 昭和61年(手ワ)37号 判決

原告 尾上繁雄

右訴訟代理人弁護士 阪口春男

同 今川忠

同 廣田研造

同 三木秀夫

被告 有限会社サロンテイン

右代表者代表取締役 河西綾子

右訴訟代理人弁護士 太田全彦

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 被告は、原告に対し、金七三〇〇万円とこれに対する昭和六一年二月二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

3. 仮執行の宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 原告は、次のとおりの記載がある約束手形一通(以下「本件手形」という。)を所持している。

金額 七三〇〇万円

満期 昭和五九年九月八日

支払地 東京都品川区

支払場所 株式会社 協和銀行目黒駅前支店

振出地 東京都世田谷区

振出日 昭和五八年九月八日

振出人 被告

受取人 原告

2. 被告は、本件手形を振り出した。

よって、原告は被告に対し、本件手形金元本とこれに対する本件訴状送達の日の翌日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は満期の記載を除き認める。本件手形の満期欄の記載は昭和五七年か同五八年か同五九年かを特定することができないから、右手形は手形要件を欠き、無効である。

2. 同2の事実は否認する。本件手形は被告において約束手形として振出交付したものではなく、被告代表者である訴外河西綾子が原告から金七三〇〇万円を借り受けた際、被告が河西の右債務を保証する保証書の趣旨で振出日欄及び満期欄を空白にして、かつ白地補充権を授与することなく原告に交付したものである。

仮にそうでないとしても、原告は満期の記載を無権限で訂正、変更したものであり、その結果右手形は満期の記載を特定することができない無効の手形となった。

三、抗弁

訴外河西綾子は、原告に対し金五九九〇万円の債権を有しており、昭和六〇年一一月二〇日右債権をもって本件手形の原因関係たる原告の前記貸金債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四、抗弁に対する認否

被告の抗弁事実は否認する。

第三、証拠〈省略〉

本件記録中の目録のとおりであるから、引用する。

理由

一、請求原因1の事実は満期の記載を除き当事者間に争いがない。

二、被告は本件手形につき満期の記載が特定できないから無効であると主張するので、この点について判断する。

検証物としての甲第一号証によれば、本件手形はいわゆる統一手形用紙を使用し、満期欄には不動文字で「昭和 年 月 日」との文言が印刷されており、その間にペンで日付が記入されているが、このうち年号を示す二文字のうちの一字が二重若しくは三重に重ね書きされたものの如く「7」、「8」若しくは「9」と判読し得る記載となっており、この結果右手形の満期は「昭和五七年九月八日」、「昭和五八年九月八日」又は「昭和五九年九月八日」のいずれかに解し得ることが明らかである。

約束手形はその文言証券性からもっぱら手形上の記載自体によって手形要件の有無を判断すべきであるところ、右の記載をもって満期を「昭和五年九月八日」と解することは社会通念に照らして相当でないし、振出日等の記載を参酌してもなお満期の年号を特定することはできない。また、統一手形用紙を用いて右のとおりの記入がされていることから本件手形は確定日払の約束手形として振り出されたことが明らかであり、従って手形法七六条二項を適用する余地もないと言わなければならない。

そうすると、結局本件手形は満期の適式な記載を欠くものであり、無効と解さざるを得ない。

三、よって、その余の点に立ち入るまでもなく原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安間龍彦)

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